TBS『じゃあ、あんたが作ってみろよ』(谷口菜津子原作)とラカンの「欲望とは他者の欲望である」ことについて

『じゃあ、あんたが作ってみろよ』(TBS、谷口菜津子原作)を見ていると、ジャック・ラカンが「欲望とは他者の欲望のことだ」と言った意味がよくわかる。...

選択的夫婦別姓問題について ― 貧相な個人主義のなれの果て(Spotifyポッドキャスト解説付き)

夫婦別姓を、〈家庭〉より〈個人〉という思想で持って主張する人は、何を考えているのだろう。 たぶんそれは、性愛の否定でしかない。性愛の本質は〈子供〉を疎外化するというのは、ルソー的な自然主義やロマン派(ゲーテやノヴァーリス)の「内なる心」論に反して、ヘーゲルの考えたことだが(『精神現象学』、『法哲学』など)、その疎外の意味は、二人で一つという性愛の本質(子供)を言い当てている。 ...

「個別最適化」学習を学校教育に持ち込むと教育格差はますます拡大する。

8月27日のFacebook投稿で、元文科大臣の下村博文さんが、以下のようなことを言っていた。 なぜ全員が同じ教科書、同じスピードで学ばなければならないのでしょうか?現在の義務教育は、全国一律のカリキュラムに基づき、子どもたちが同じ内容を同じペースで学ぶ仕組みです。しかし、理解が早い子もいれば、じっくり考えることで力を伸ばす子もいます。画一的な教育は、子どもの多様な才能を活かしきれず、結果的に学ぶ意欲を奪うリスクがあります。 そこで私は「AIドリブン学習革命」を提案します。AIの活用によって、子ども一人ひとりに合わせた個別最適化された学びを実現するのです。学びが早い子はさらに挑戦的な課題へ、つまずいた子には理解を深めるサポートを。教師は「一斉に教える人」から「伴走する人」へと役割を転換し、子どもが自分のペースで確実に学びを積み重ねられる環境を整えます。義務教育を一律から個別へ。これこそ次世...

「試験の点数」軽視と教育格差について ― 〝主体性〟〝人間性〟教育が教育格差を拡大することについて

教育の目標は「試験の点数ではない」、「点数で子供の〝能力〟を測るべきではない」と言われて、もっとも被害を受けるのは、文化的にも経済的にも貧乏な家庭の子どもたちだということを未だにわからない連中がいる。 その連中は、「知識だけ」ではなく、〝主体性〟や〝人間性〟が大切とか言いながら、文化的にも経済的にも貧乏な家庭の子どもたちを食いものにしているだけのこと。そもそも「主体性」「人間性」という科目免許を持った教員などいない。そんな教員審査もされていない。誰が何の名目で、そんな〝審査〟ができるというのか。 そもそも泥棒も主体的に(場合によっては命がけで)泥棒をやっているわけだし、戦争のような非人間的で卑劣なことを行うのも人間性と言われているものの一つです。人間的であるからこそ非人間的であることはいくらでもあります。主体性とか人間性という耳障りのよい言葉は、問題の本質を解決する言葉ではなくて、むしろ...

今頃『海のはじまり』(2024)をみた ― 誰ひとり寂しくはなく、誰もが寂しい愛の物語。

この作品『海のはじまり』(2024)は、7歳の娘「海(うみ)」のはじまりが、それぞれの登場人物の中で、すこしずつずれて始まるということ、その複数の時間のずれたはじまりが共鳴し合ってドラマは進行していく。そして、登場人物のすべてが、それぞれのずれあう「はじまり」を有しているということだ。 ...

『ゆきてかへらぬ』(監督 根岸吉太郎)を観た ― 中原中也の愛した女

『ゆきてかへらぬ』(2025)を観た。監督 根岸吉太郎、脚本 田中陽造。 中原中也と長谷川泰子と小林秀雄が踊るさまだけでもみていてどきどきする。 中原中也の木戸大聖は全然ありだが、小林秀雄の岡田将生はちょっと違うと思う(ただし、煙草の吸い方は似ていた)。広瀬すずは熱演していたが、さすがに長谷川泰子を演じるのは無理。 しかし、小林秀雄に向かって「私の背中曲がっていない? …支え棒なしに歩いているから、かな」と、中原中也の焼却場の煙を背にして語る、広瀬すずのセリフはぞっとするほどの迫力だった。 小林秀雄もこんな女を前にすれば奈良(志賀直哉のところ)へ逃げるだろう。『本居宣長』を書けたのは長谷川泰子のおかげかも。...

10回以上の引っ越しの中で、60年間以上、持ち付けているもの ― 京都元祖『眠眠』とその社長秘書・中井さんの絵(Spotifyポッドキャスト付き))

◎京都元祖『眠眠』とその社長秘書・中井さんの絵 この拙宅の玄関にある絵(2015年60歳になる秋に終の棲家に引っ越して以降)は、私の伝記自体みたいなものなので、その経緯を〝遺書〟として書いておきましょう。 と言っても大した意味はない。単純に、たぶん私の今の自宅にあるもののなかで、一番長く私が持ち続けている物だということだ。家内と会ったのが中学一年だから、この絵はそれより2年先にあっているということ。長い! ...

大学において、期末試験(履修認定)を第三者化する意義について(Spotifyポッドキャスト音声概要付き)

シラバスや教材や小テストなどをいくら充実させても、期末試験(単位認定権 )が担当教員の手中にある限り、それらは絶えず形骸化する。意味がない。あらゆる〝教育改革〟は、この試験管理(判定管理)を棚に上げたままでは、すべて空虚。逆にあらゆる〝教育改革〟は、どうやって試験管理するのかをはっきりさせてから進むべきだ。 ...

英語で論文を書く、英語で授業を行うという貧困について

東大の授業の英語化(東大大学院工学系研究科)が議論されているが、昔、柄谷行人が(日本語で思考することの不利がらみで)英語で書き始めたとき、吉本隆明が、ほんとに国際的な水準を有しているのなら、誰かがその論考を何語にでも訳してくれるさ、と揶揄していた。たしかに、フーコーと吉本隆明との画期的な対談を通訳していたのは、後に東大の総長にまで上り上がる蓮實重彦だった。...

多様性教育、個性教育はマーケティングにすぎない。

たぶん、学校教育において、「多様性尊重」とか「個性を伸ばす」とか声高に叫んでいる人たちは、単に営業しているだけなのだ。そう言わないと集まってこない、教育できないマーケットを相手にしているに過ぎない。 本来は、好き嫌いと関係なく、学ばなくてはいけないことがたくさんある学校教育の課題を正面から見据えず、また見据えることができるほどの教員マネジメントのノウハウを持たないまま、そういった体のいい営業言葉を前面化しているだけのこと。 楽しく、主体的に学ぶことは重要なことだが、それは、学ぶべきことを学ぶプロセスの中でないと意味がない。...

「いま言われたことがもし本当なら、何度死んでもいい」というプラトンの言葉(『ソクラテスの弁明』)は、「かくあったか、ではもう一度」というニーチェの言葉に通じている。

死んだ人と、会わない人との違いはなんだろう。古い同級生などは消息不明だが、消息不明の人と死んだ人との違いはなんだろう。関心のない人と死んだ人との違いはなんだろう。アリストテレスに関心はあっても、会えなくて悲しいということはないし、親しい友人ほど会いたくないということもある。これらすべては、生死や実在とは何かという問題に関わっている。 動物も大概の場合、〝抵抗〟しない(反論しない)ことを思えば(動物も抵抗すると思う人は、大概の場合、自分の都合のいい抵抗をそう見なしているだけのこと)、死んでいるのと同じ。沈黙する恋人は、噛みつく犬より怖いに決まっている。 ヘーゲルもまた反抗するのが自意識をもった人間と動植物との違いだとどこかで書いていたが、死んだ(反抗しない)人間と動植物との違いはなんだろう。人は墓石に話しかけるように、犬に話しかけているとしたら。...

大学の「教育の質保証(Quality Assurance in Education)」について ― 全国の大学のどこにもない三つの取り組みについて

【はじめに】 授業の質向上への取り組みについて ― 授業情報をいかに共有するか 大学における「教育の質保証」ということについて、私たちは、「授業の質」向上を中核の課題として取り組みました。毎日通う教室の授業が理解できて、それが楽しくなければ、どんなにキャンパスライフが〝充実〟していても意味がないと考えたからです。 日本の大学生は入学時の学力(受験勉強で培った学力)がピークで、高い学費を払って学ぶ入学後の4年間の成長が見えないとよく言われますが、私たちは、この四年間での学習成果が見える大学教育を目指しました。 大学の授業には、参考書も塾も、家庭教師も予備校も存在していません。最高学府の大学には、高校までのような教科書もない。もちろん文科省による指導要領も存在していない。「教員資格免許」を持っているわけでもない。それもあって、同じ科目名であっても、大学の授業は、先生によって全然異なる内容の授業...

【第4版】大学は、〝自分探し〟の場所ではない ― 松山道後新キャンパス総合心理学部新入生歓迎11,500字講話(2025年4月26日)

●大学は、〝自分探し〟の場所ではない。 ※この講話(約90分)は、16枚のパワポスライドを使ってなされました。掲載にあたっては、その場合の箇条書きをそのまま使用しています。行間が読み込みづらいところもあるかと思いますが、ご寛恕を。 大学は、〈他者〉が何を考えているのかを考える場所。「自分」「私」なんて死ぬ直前にふと思うくらいで充分。 ここで言う〈他者〉とは、大学の先生であり、先生が典拠している書物であり、現在までの歴史の全体です。現在そのものが歴史です。 大学の先生がもし立派に見えるとすれば、それはみなさんより書物を読んでいる分だけのこと。それ以外に先生が立派な理由などありません。素の言葉で、自分の言葉で話している先生なんてくそ食らえです。先人の諸々のパワーを継承しているからこそ、先生は立派な人なのです。 勉強するということは、人類が築いてきた文化的な資産(世界と世界史)を、すべて受け継ぐ...

文字教材(※)はプレゼンテーションの一種でも、授業手段の一つでもないということについて

※本学では一コマ90分の授業で、教員が書き下ろしの文字教材(10,000字~15,000字)を使用して授業を行っています。「これを単に読み上げて授業をやるのならば、機械でも出来るではないか、板書やパワポを並行して使うのは、いけないことなのか」というもっともな議論がありました。以下にその議論をまとめておきます。  本日(4月19日)オープンキャンパスの心理学科模擬授業パワポについての私のコメントは、「(精神疾患の)診断一致率の改善を目指し、DSM-Ⅲ(1980)から操作的診断基準が導入された。操作的診断基準は、症状の原因を排除し、疾患に特異的な症状、その持続期間を明確に定めた診断基準である」というテキスト内の「操作的」という言葉を巡ってのものでした。...

今日から新入生を受け入れる「履修の手引き(の一部)」を17,000字ほど書き下ろしてみた ― 全国初の生成AI全学導入の大学「履修の手引き」。

●本学の教育の特徴(1) ― 「学生の試験点数は、先生の授業点数」 1)学生の点数は先生の授業の質が決める ― 学生の努力も先生次第 本学の教育の特徴は、「学生の試験点数は、先生の授業点数」という考え方です。 学生であるみなさんの試験点数は、すべて先生がどんな授業をやれたか、授業テーマやその進展に関心が持てる授業をやれたか、わかりやすい授業をやれたか、やる気を起こす授業をやれたか、そういった諸々の先生の取り組みの結果生まれた点数です。その取り組みが真摯であれば、当然のことながら、みなさんの点数は上がる。落第することもない。 学生が予習する、復習をする、そういった取り組みも、先生が一つの授業にどれだけ時間をかけて取り組んだかの結果です。「最近の学生は予習も復習もしない」と嘆く大学の先生がいますが、自分がまともな授業準備もしていないのに、学生が予習・復習するはずがない。 2)授業の「つまらない...

素数とパスワードと自己意識と。

結局、素数が因数を寄せ付けないとすれば、そしてそれが、デジタル社会の今日でのパスワードが存在しうる根拠になっているのだが、そしてパスワードとは、人間の〈私〉の唯一性の数学的な根拠であるとすれば、人工知能が〈人間〉になるかどうかは、素数の〈関係 function〉を見いだせるかどうかに関わっている。...

大学の先生なしには読めないものを〈本〉と言う ― 〈古典〉は、人を差別する

実際、すべての本やエッセイ(とりあえず、書棚を必要とするハードカバーの本)は、先生なしには読めるものではありません。 私なんか高校まで勝手に読んでいた本の諸々の解釈を大学の先生の逐語的、逐行的な指導を受けてボロボロにされました。それ以来、大学とは、若者の青臭い自尊心を破壊するところと認識しました。 単なる〝知ったかぶりな奴〟だったのです。当時現代フランス思想とリアルタイムに同期した『現代思想』(青土社)青年でした。10年ほどして、書物のページのそこかしこに引いていたアンダーライン(サイドライン)を消しゴムで消しまくったくらいです。高校の先生の指導もあやしかったと思います。...

息子、頑張ってるじゃん。

本日は、松山の学園本部で評議員会・理事会、その後、道後新キャンパスでもろもろ打ち合わせ(そのうち、なんと学園長と2時間も対面で二人きりでもろもろ打ち合わせ)、そうこうするうちに、さらば青春の光の森田さんと東ブクロさんが彼らの番組収録で3階の教室にいるとの情報あり。そう言えば、羽田からの飛行機で松山に降りたとき、森田さんがなぜかいたのです。なるほどと、理解。...

生成AIの教育活用について 、あるいは知識・スキルの定着について ― テキストの要約、詳論、問題作成の多様で多層な展開が大学教育と大学教員にもたらす効果について

ここまでの私の生成AIへの評価。 生成AIは、一つの書き物(論文や既存の文献)が存在すれば、あらゆる観点からその内容の、別のものへの変奏(言い換え)が可能になる。この〈変奏〉こそが、〈教育〉の実体。※変奏とは、この場合、シラバスへの変奏、小テストやドリル、あるいは期末試験への変奏、難易度別の教材への変奏、そして、それぞれの変奏の無限に多様な展開などを指す...

昨年8月70歳になって、70歳のお正月を超えて ― 命短し恋せよ乙女

70歳にもなると、80歳以上までも生きている人を、ただただそれだけで尊敬したくなるのだけど、最近は、若い人たちへの配慮(敬意)も考えるようになった。 というのもこの人たちは、われわれ年長ならではの、キャリアの仕出かした諸々のミスを背負って、未来へ向けて修正していかなくてはならない人たちなのだから。...

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